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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2642号 判決

控訴人

亀井隆義

右訴訟代理人

武藤大輔

被控訴人

端山輝男

主文

原判決を取り消す。

控訴人を債権者、被控訴人を債務者とする横浜地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第七五八号不動産仮処分申請事件について同裁判所が昭和五〇年八月二一日した仮処分決定を認可する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人を債権者、被控訴人を債務者とする主文第二項掲記の仮処分申請事件において発せられた起訴命令(横浜地方裁判所昭和五〇年(モ)第一八八八号)の正本が昭和五〇年九月三日控訴人に送達されたが、その送達の日から一四日以内に本案訴訟の提起がなかつたことは、当事者間に争いがなく、また、〈証拠〉によると、控訴人は、右起訴命令所定の期間徒過を理由とする主文第二項掲記の仮処分決定の取消申立事件の口頭弁論終結(該口頭弁論は同年一〇月三一日終結され、判決言渡期日が同年一一月二一日と指定されたことは、記録上明らかである。)後である同年一一月四日に至り、原裁判所に、右仮処分の本案訴訟として、被控訴人を被告とし、該仮処分の申請理由と同一内容の事実を請求原因とする係争地についての所有権移転登記手続請求の訴えを提起したこことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

思うに、民訴法七六五条の準用する同法七四六条二項が、債権者において起訴命令に従わない場合にさきに発した仮処分決定を取り消すこととしているのは、本来仮処分が本案訴訟を前提とする債権者のための仮の措置であるところから、仮処分を受けた債権者が本案訴訟を提起しないことによつていつまでも継続する債務者の不確定な権利関係の下に置かれている不利益を除去せんとする趣旨に出たものであるところ、法が起訴命令所定の期間経過の一事によつて直ちに仮処分決定を失効させることなく、裁判所においてこれを取り消すこととし、しかも、その取消を債務者の申立てに基づく終局判決に係らしめていることと、仮処分決定の取消判決には仮処分請求権について既判力が生じないことに思いを致せば、起訴命令所定の期間経過後における本案訴訟の提起であつても、前叙のごとき当事者間の利益の均衡を破る特段の事情の認められない限り、事実審の口頭弁論終結時までになされたものであれば、これによつて仮処分決定を取り消さずに維持すべきものと解するのが、法の趣旨に適合し、また、訴訟経済の要請にも副う所以であるということができる(最高裁判所昭和二三年六月一五日第三小法廷判決、民集二巻一四八頁参照)。

いま、本件についてこれをみるのに、控訴人が本案訴訟を提起したのは、前叙のように起訴命令の告知の日から起算しても二か月余りにすぎないばかりでなく、控訴人は、原裁判所に右の本案訴訟を提起するとともに、弁論再開の申請をしたが、該申請は却下され、予定通り、判決言渡しがなされるに至つたこと、記録上明らかであり、前叙のごとき特段の事情を認めるに足る証拠はない。

よつて、被控訴人の本件訴えは理由がなく、前記仮処分決定は認可すべきこととなり、これと結論を異にする原判決は結局不当であつて本件控訴は理由があることとなるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九〇条を各適用して、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 古川純一 岩佐善巳)

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